上場会社監査における職業的懐疑心の重要性と会計士の未来

自動車会社社長の逮捕などもあり、有価証券報告書や監査法人に注目が集まっている。しかし一般的には、監査法人やそこで行われている業務について知っている人はまだまだ少ないのではないだろうか。そこで今回は、大手監査法人で働く20代男性会計士(N氏)にどのようなお仕事をしているのか語ってもらった。

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マイナビ会計士編集部
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プロフィール
20代男性会計士大手監査法人勤務
東京都出身。両親が大手コンビニエンスストアのフランチャイズ店を経営していたことが影響し、幼い頃から経営に興味をもっていた。高校時代、将来の夢を考える際に、会社経営・会計に関する職業の中で一番すごい人になりたいと思い公認会計士を目指したいと考える。高校卒業後大学1年時に初めて簿記を学び、そこから公認会計士の勉強を始め、大学3年の8月の論文式試験に一発合格。大学卒業後、大手監査法人に勤務し現在に至る。主に国内の上場企業の監査やIPOを目指す上場準備会社のIPO支援業務に従事。さらなる経営・会計に関する知識習得のために日々精進中。趣味はバスケットボール。今は主に、どのようなお仕事をなさっているのでしょうか。
主な業務内容は『上場会社監査』と『株式上場(IPO)支援業務』の2つです。
まず『上場会社監査』がどのようなものか説明しますね。これは、いわゆる監査業務のことを指します。日本の証券市場に上場している会社に提出が義務付けられている『有価証券報告書』に重要な虚偽表示がないどうか意見を表明するために、主に、会社の作成した『財務諸表』の数値を検証していく業務です。
具体的には、会社が作成した『財務諸表』とその根拠となる資料の間に不整合はないか、会社の行っている取引が合理的で、その取引の実態をしっかりと会計数値で表現できているかなどの検証を行います。
上場会社監査で一番大事なことは、常に対株主・投資家などの第三者意識し、職業的懐疑心を発揮して業務を行わなければならないことです。監査法人の報酬はクライアントから受領しています。そのため、クライアントからの無理な要望に対しても、受容的になってしまうケースが起こるかもしれないと危惧されるこがあります。
しかし、これでは公認会計士の存在意義がありません。不適切な財務諸表が世の中に出ることでクライアントの株主や第三者の投資家が誤った判断をしてしまうかもしれません。
そのようなことにならないように、公認会計士はクライアントの意見を聞きながらも、しっかりとその内容を吟味し、職業的懐疑心を発揮して業務をすることが非常に重要になってくるのです。
次に、『IPO支援業務』に関して説明したいと思います。そもそもIPOとは『Initial Public Offering』の略であり、『新規株式公開』のことです。具体的には会社が資金調達を目的として、会社の発行している株式を自由に売買できるようにするために、証券取引所に上場することを意味しています。
このIPOを行うにあたって必要な手続きや要件がいくつかあるのですが、その中の1つが、上場事業年度の2年前及び直前事業年度の財務諸表の監査を受けなければならないということです。そのためIPOを実施するには必ず公認会計士が必要となるのです。
公認会計士が行うIPO支援業務の主な業務内容は、上記で説明した『上場会社監査』で行う監査業務とほとんど変わりません。しかしIPO支援で行う監査と上場会社の監査は公認会計士が実施する監査業務以外のところで大きく異なると私は思っています。
何が大きく異なるのでしょうか。
それはクライアントの規模感や会社組織としての成熟度です。私がIPO支援業務で関わったクライアントは会社発足から10年未満の会社がほとんどで、従業員が100人未満であったり、我々の監査対象となる財務諸表を作成する経理機能がしっかり整備されていない状況であったりするなど、会社組織として成熟しきっていないケースが多くありました。
会社がこのような状況にある場合、一般的に上場会社より経理における処理の誤りや、業績を良く見せようとして不正を行うリスクは相対的に高くなると考えて対応します。こうした特徴がIPO監査にはあるのです。
監査法人でのお仕事は、受験生時代に想像していた通りでしたか?
私が監査法人に入所してから約1年半経過しますが、監査法人に入所したからこそ経験できたことがいくつもあります。
そもそも、試験勉強中に抱いていた公認会計士の業務のイメージは、数値や処理にエラーを見つけたら会社の人に伝えて修正してもらうこと、という漠然としたものだけでした。実務についてみて、実際はそのエラーを見つけるために、会社が行なっている取引の性質、取引の経済合理性を理解・検討することがとても大事なことであり、その検討作業に多くの時間をかけていることが分かりました。こうした検討作業が行われるからこそ、会社の処理が正しいかどうか判断できるのです。
また、監査業務を行う中で、誤りと思われる点を見つけた際に、経理担当者の方だけではなく、場合によってはさらに上位者の経理部長とお話をして内容を確認し、適切な処理に修正してもらうようなことがありました。公認会計士1年目だとしても、自分の担当となった科目や項目については最後まで責任をもち会計のプロフェッショナルとして経理部長と話をしなければなりません。
業務に従事して最初の頃はどのように先方の方にお伝えすればいいか、戸惑うことも多々ありました。新人でありながら会社の経理部長の方とお話しさせていただくという経験は、他の仕事ではなかなかできない経験ではないかなと思います。
『IPO支援業務』では、先で説明した通りクライアントの経理機能が未成熟な場合が多いため、こちらが経理担当者に誤りの内容、改善の方法を説明することもあります。一般的な監査業務よりも業務量が多くなり大変なこともありますが、自分が会計士試験を通じて得た知識を使って、直接経理担当者の方に伝えることができとてもやりがいを感じることができました。
さらに、クライアントの社長に現時点の経営状況や今後の事業計画等のヒアリングを行う「経営者ヒアリング」の場に参加することもあります。私が自ら発言をするようなことは今はまだありませんが、会社の社長が会社の現状をどのように捉え、今後の経営方針等をどう考えているのかを聞くことはとてもいい経験でした。
社長のリアルな考えを聞くことは、監査人として理解している企業の状況と相違がないことを確認するという監査手続の一環である以上に、若手の公認会計士からすれば、会社の経営者の話を生で聞くことができるとても貴重な場だと思います。
そうした経験を踏まえ、今後の会計士業界についてのお考えを聞かせてください。

この1年半公認会計士として業務に従事してみた感触としては、今後公認会計士の業務内容やクライアント・市場のニーズはますます変化していくのではないかと思いました。
最近では近い将来に必要がなくなってしまう職業ランキングの上位に常に公認会計士がランクインしています。私は公認会計士が全く必要なくなるとは思っていませんが、ITのさらなる発展により必要ではなくなる作業が増えたり、作業がより効率化されることによって今より公認会計士の作業が少なくて済むようになったりする可能性はあると思っています。
このような話をすると公認会計士業界はどんどん規模が縮小していき最終的には必要なくなる職業かと思われてしまうかもしれませんが、そう言いたいわけではありません。公認会計士の仕事の中で一番重要なのは、クライアントの取引内容を実態に合わせて適切に表現されているか判断することだと私は思っています。
仕訳が正しく起票されていることを確かめる、前期と当期の数値を比べて増減要因を確かめる等、これらも監査の大切な業務の一環ではあります。ただ近い将来にAI等の情報技術が進化すれば、これらの業務を公認会計士自らが手を動かして確認する必要はなくなるかもしれません。ただし、クライアントの考えに寄り添い、その上で取引の実態を最も適切に表しているかどうかを判断するのは最終的にはAIではなく公認会計士だと、監査業務を通じて実感しています。
IPO支援業務ではなおさら、公認会計士の判断が重要だと感じています。IPOを目指す会社は今までにない新しいビジネスを行っているケースが多く、こうした場面ではその新しいビジネスの取引を会計的にどのように表現すべきか等、上場会社監査以上に公認会計士の判断が必要になってくるはずです。
会社経営・ビジネスは現時点よりもさらに物事を便利にしよう、よくしていこうと人が思い、行動することによって発展していきます。それを理解し、取引が適切にされているかどうかを判断しなければいけない以上、常に懐疑心を保持し、適切な判断のできる公認会計士は今後も資本市場の中に存在しなければならない存在であると私は思います。
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