公認会計士が独立を目指すには?独立のメリットやデメリットを解説
公認会計士が監査法人で行うメイン業務は「監査」で、多くは数名から数十名のチームで業務を行います。チームの中では自身が行う業務範囲は限られていますので、「もう少し全体を見る仕事がしたい」と思う人もいますし、「裁量を持って自由に仕事をしたい」「監査以外の仕事をしてみたい」と思う人もいるでしょう。
そのため、公認会計士の中には、監査法人を退職して独立を目指す人もいます。ここでは、公認会計士が監査法人から独立するメリットやデメリットのほか、独立に必要な準備、独立に向くタイプなどについてご紹介します。
江黒 崇史
公認会計士 / 江黒公認会計事務所代表 / 株式会社E-FAS代表取締役
早稲田大学商学部卒業。2001年公認会計士二次試験合格。同年監査法人トーマツ入所し会計監査業務に従事。その後、ベンチャー企業CFO、会計コンサルティング会社を経て、2014年7月に江黒公認会計士事務所、2015年2月に株式会社E-FSを設立。ベンチャー企業を中心にIPOコンサルティング、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努めると同時に、ベンチャー企業から上場企業まで5社の社外役員も務めている。
監査法人から独立を目指すメリット・デメリット
公認会計士の一般的なキャリアは、公認会計士試験に合格し、BIG4をはじめとする監査法人に入り、監査の実務経験を積みながら補習所に通い、修了考査に合格して公認会計士の資格取得を目指すことになります。したがって、公認会計士の資格取得後に、自分はこれから何をしたいのか、何を目指すのか、これからどのような道を進むのかを考えることが、自分自身で決める公認会計士としてのキャリアの第一歩となります。
監査法人は多忙であっても、給料は高いほうですし、安定性やブランド力もあります。そのため、監査法人を退職して独立を目指すというのは、リスクのある行為だと考える人もいるでしょう。まずは、監査法人から独立を目指すメリット・デメリットをご紹介します。
公認会計士が独立するメリット
公認会計士が独立するメリットは、おもに下記の3つがあります。ただし、あくまで独立に成功した場合のメリットになりますので、ご注意ください。独立のメリットとデメリットは、表裏一体の関係にあるといえます。
・仕事を選べる
業務内容やクライアントを自分自身で選ぶことができます。自分の好きな仕事をしていれば、多少の困難があっても、つらくないでしょう。また、クライアントも選ぶことができますから、「このクライアントは自分とウマが合わなそう」「この仕事は危険な感じがする」といった場合、自分の判断で断ることも可能です。
・収入がアップする
独立して事務所が成功すれば、たくさんの仕事が来るので収入がアップします。監査法人に勤めている場合、社内規定をベースに給料が決まりますし、多くの場合はスタッフやマネージャーなどの職階による給与ベースがあることでしょう。一方、独立をしていれば自分のがんばり次第で多くの仕事を担当し、それに応じて収入を得ることができます。自分の裁量に応じて収入を上げていきたいと考えている人には、独立が向いているともいえます。
・ワークライフバランスがとれる
収入より自分の自由な時間が欲しいという場合も、独立していればワークライフバランスを自由に決められます。休暇申請を出す必要もありませんから、「この日は自分の好きなことに使う」「7月と8月はバカンスで一切仕事しない」など、自分でコントロールすることも可能です。趣味の時間を持ちたい、育児の時間を取りながら仕事をしたい、家族との時間を充実させたい、働く場所も自分で自由に決めたいなどと考えている人にとっては、理想的な仕事環境や自分で仕事のペースを作れるのは大きなメリットといえます。
公認会計士が独立するデメリット
続いては、公認会計士が独立するデメリットです。メリットに目を奪われがちですが、当然デメリットも存在します。組織に所属しないということは、うまくいかなかった場合の責任も自分一人で抱えなければなりません。
・苦手な仕事や気が合わないクライアントの仕事でもしなければならない
メリットの真逆になりますが、独立しても仕事が思うように獲得できない場合、収入を得るために苦手な仕事や気が合わないクライアントの仕事も受けざるをえないこともあります。ウマが合わない程度なら我慢できたとしても、悪質なクライアントだと報酬をもらいそびれる場合もあるかもしれません。個人の場合は、このような弱みにつけ込まれるケースもありますので、注意しましょう。
・大きな監査はできない
独立した場合、大企業から監査を任されることは難しくなります。ですから、監査が好きで、グローバル企業の監査を担当したいという人にとっては、仕事の面白みが減るかもしれません。
・仕事への責任がすべて自分にある
大手監査法人や会計事務所など、組織に属していれば仕事において仮にミスがあったとしても、チームや法人がフォローしてくれたり、失敗の挽回チャンスをチームで作れたり、その仕事への責任もチームや法人単位になったりすることが多いでしょう。もちろん、だからといって仕事の責任が少なくなるわけではありませんが、独立して仕事を行っていると、過失の責任はすべて自分にあります。公認会計士の仕事は、謝って許してもらえるレベルの失敗ではなく、クライアントに大きな損害を与えるケースもあるため、責任は重大です。
また、独立後は何よりも、健康やケガには十分注意する必要があります。
監査法人など組織に所属していれば、風邪などで多少休んでも、給与は支給されるでしょう。しかし、独立して仕事をしている場合、仕事を休むことは収入減や信用減にも直結します。
公認会計士が独立してできる業務は?
公認会計士が行う仕事は、監査法人に勤務している際には、監査が中心となります。監査業務自体は監査法人に所属しても独立しても変わりませんが、その規模や傾向などには違いがあるようです。
ここでは、独立した公認会計士が、どのような業務をしているのか見ていきましょう。
・監査
公認会計士であれば、おそらく誰もが経験しているのが監査です。しかし、個人事務所では、大きな会社に対する会計監査はリソース面から受けることは難しいですし、大企業から個人事務所へは監査の依頼はほとんど来ないでしょう。ですから、もし独立後も大企業の会計監査を希望する場合は、監査法人などの業務を「監査補助スタッフ」として請け負うことになります。
なお、監査でもいわゆる上場企業の監査ではなく、学校法人や特別目的会社の会計監査、会社法の会計監査などは、個人事務所でも引き受けている例が見られます。
・税務
監査ではなく税務を行うのも、公認会計士ならではの独立方法です。税務であれば、中小企業をクライアントとしてたくさんの仕事がありますので、実際に税理士業務をメインに考えて独立する人も多いようです。その際、上場企業の会計監査経験などを活かしてクライアントを支援している例も見られます。
・コンサルティング
会計コンサルティング業務、IPO支援、M&Aアドバイザリー業務などのコンサルティング業務も、独立して受けることができる業務です。ただし、通常の監査以外の専門知識や経験も求められますので、これらの仕事を独立して担当するには、ある程度の実務経験が重要になります。
ほかにも、企業研修や会計セミナー、出版・コラム執筆などを行っている人もいますし、最近では、YouTubeでの動画配信に挑戦をしている公認会計士もいます。自分の挑戦したい業務に挑戦できることは、独立の醍醐味といえるでしょう。
独立に必要な準備
いざ独立を考えた場合、職種によっては事前の準備が必要な場合があります。公認会計士が独立する場合には、どのような準備が必要なのでしょうか。独立で失敗しないために、しっかりと準備をしておきましょう。
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会計士が独立に向けてのやるべき準備とは?
自分の目指すスタイルが学べる事務所で専門知識を磨いたり経験を積んだりする
独立する業務に関して、専門家として知識を増やしたり、経験を積んだりすることが必要です。会計、税務、IPO、M&A、監査など、独立して行いたい業務の知識や経験を得ることが大事でしょう。
また、スキルを高めるためには、経験も重要です。例えば、税務業務を中心に独立するのであれば、当然ですが税務業務を経験する必要があります。もちろん、公認会計士の資格を持っているのであれば、税務の知識はあるでしょう。しかし、大手監査法人では監査業務しか経験していない場合も多いので、税務についての実務経験はゼロという人も少なくありません。
そこで、独立する前に税理士事務所などに入り、税務だけでなく、顧客獲得に向けた見積書や提案書の作成、契約書の準備、製本・押印の方法、請求書発行、売上代金の回収など、業務全体の流れを経験することが大切です。独立後は一人ですべて行うことになりますし、仮に事務員を雇うにしても、経験がなければ指示もできません。
事務所によっては、新規顧客への営業も経験できます。最初は所長などと営業同行することになるかもしれませんが、一人で顧客獲得のアプローチなどができるようになれば、独立してからも仕事を取れる自信につながります。
幅広い経験をしたいのであれば、大所帯ではなく、さまざまな仕事を身近で見られる小規模な事務所で仕事をするほうが、よりたくさんの経験をすることができるでしょう。その際には、「将来、独立も視野に入れています」という点を、きちんと伝えて入所することが礼儀です。
クライアントや事務所の先輩・後輩などの人脈を作る
独立してすぐにたくさんの仕事を取るのは難しいので、独立後に仕事の相談をもらえそうな人脈を作っておくことも大切です。所属している事務所によっては、独立するときに所長から「今担当しているクライアントを持っていきなよ」といって応援してくれるケースもあるようです。
人脈づくりとしては、例えば経営者が集まるようなイベントに参加してみたり、自分が関心のあるコミュニティ活動に参加してみたり、自分からSNSなどで情報発信をしてネットワークを広げたりすることも有益でしょう。
また、事務所の先輩や後輩と関係が良好であれば、何かの際に仕事を紹介してもらえることもあります。特に、すでに独立している先輩などがいる場合は、「今、新しい仕事の相談を受けたが、自分は手一杯で引き受けることが難しい。良かったら紹介するよ」など、先輩の信用をもとに仕事を得ることもできるでしょう。
いずれにせよ、トラブルを避けるためには独立する意思があることをきっちり事務所に伝えておくことが大切です。
独立に成功するタイプと失敗するタイプの違いとは?
いざ公認会計士として独立を果たしても、仕事が取れずに監査法人や会計事務所などに逆戻りするケースもあります。独立の成功と失敗は、どこで決まるのでしょうか。
続いては、独立に成功するタイプと失敗するタイプの例を挙げておきましょう。
独立に成功するタイプ
独立に成功するのは、下記のようなタイプが挙げられます。このようなタイプなら必ず成功するということではありませんが、参考にしてみてください。
・営業力が高いタイプ
独立して自分で仕事を取るには、自主的にアプローチすることも必要になります。引っ込み思案ではなく、「人に会うのが好き」「情熱がある」「積極性がある」など、いわゆる営業力が高いタイプが成功しやすいといえるでしょう。
・コミュニケーション能力が高いタイプ
独立した事務所を信用してもらうには、クライアント候補に安心感を持ってもらう必要があります。特に、クライアントが若い経営者の場合は、いかに相手に信用してもらえるかがカギなので、「あの人に相談したくなる」「◯◯さんはメールすると返信が早い」「◯◯さんは質問すると的確なアドバイスをしてくれる」など、コミュニケーション能力が高いタイプは成功しやすいでしょう。
独立に失敗するタイプ
独立に失敗するタイプを限定するのは難しい部分もありますが、あくまで、「このような人が独立してもリスクがあるのでは」と思われるタイプを挙げておきましょう。
・ルーズなタイプ
公認会計士に限らずどの業種にもいえることですが、時間はもちろん、仕事の締め切りやメールなどの連絡に対する返信がルーズなタイプは、独立するのは難しいでしょう。例えば、監査補助でお手伝いをしたとして、正社員なら多少は仕事や監査調書提出の期限にルーズでも注意されるだけで済みます。しかし、個人で仕事をしている場合は、「あの人は何事にもルーズだ」という評判が立ち、次第に仕事が来なくなり、長期的に見て仕事が減っていきます。
・気位が高いタイプ
大手監査法人や大手税理士事務所などの経験しかない場合、「先生」扱いされることに慣れてしまい、謙虚さを持てないケースもあります。事務所の看板がない状態で、いきなり先生的な態度でクライアントと接したり、クライアントのビジネスや考えを最初から否定したり、自分のプライドを鼻にかけてしまうような態度だったりすると、「あの人に相談したい」と思ってもらえず、結果として仕事が取れなくなっていくケースもあるでしょう。
・何でもやれないタイプ
多くの場合、最初は一人で独立をすることになるでしょう。一人で事務所を構える以上、最初のうちは一人で何でもしなければいけません。営業や専門家としての業務はもちろんですが、名刺の発注や事務所の契約手続き、電話対応、郵便手続き、事務所運営に関する費用の支払い業務など、文字どおり「何でもする」必要があるのです。
これらの仕事を自分ではやりたくないと思っている人は、独立には向きません。
独立までのスケジュールを考えて転職エージェント利用しよう
独立までのスケジュールは、独立して目指す業務により決まります。例えば、税務を柱にして独立するなら「監査法人→税理士事務所→独立」という流れが一般的です。多くの人がいきなり税務で直接独立しないのは、前述したように税務業務で独立するために学ぶべき経験やスキルを得るためのステップが必要だからです。
もし、独立後にIPO支援やM&Aアドバイザリーなどを中心に行いたいという場合も、一度、それらの業務が学べる会計事務所に入り、実務を経験することをおすすめします。
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