眞山：佐竹さんが会計士を目指したのは、家業を手伝いたいという思いからだったと伺っているのですが、ご実家が会計事務所をやられているのですか？

佐竹：そう思われるでしょうが、実は違っていて、うちの家は都内にある町工場です。次男坊ということもあり、家業を継ぐのは兄の役目だという思いが私自身にも、兄にもあったのですが、兄が社長になるなら、自分がそれを支えようという気持ちで会計士になろうと思ったわけです。

眞山：ということは、監査法人に入ったあともいずれは退職してご実家の事業に参画されるつもりだった、ということですね。

佐竹：おっしゃる通りです。が、実際にはうまくいきませんでした。リーマンショックや震災などの影響で実家の経営は必ずしも順調とは言えない状況でした。だからしばらくは監査法人で修行を続けようと思っていたんですが…。

眞山：確か早期退職制度に応募されたんですよね？

佐竹：応募した…と言えば聞こえはいいですが、要するに私は退職勧奨者のリストに入っていたんです。リストラ案が社内で発表された日、上司に部屋に呼び出されて「君を置いておくことはできそうにない」という趣旨のことをやんわりと言われました。

眞山：ということは、監査法人にはもはやいられない、かといってご実家の事業に参画するわけにもいかない…という状況だったんですね。

佐竹：恥ずかしながらそういうことになりますね。大手監査法人がリストラをするような時代ですから、公認会計士にもなかなか働き口はありませんでした。大幅に条件面で譲歩して、飲食チェーン店の本社で経理業務を担当させてもらうことになったのですが、給与は大幅に減ってしまいました。妻子がいる状況でもあったので、割増退職金を少しずつ取り崩しながら、さらに次のポジションを探そうと思っていたのですが、そのころになって精神科に通院しなければならない状況になってしまい、ストレスのかかる仕事を続けられなくなって、消去法的に独立という道を選びました。

眞山：大変だったんですね。

佐竹：ええ、大変でしたね。幸い、前職時代仲良くしていた会計士が当時独立していてクライアントをいくつか抱えている状況だったので、お願いしてお手伝いをさせてもらったりしていました。体調のこともあり、あまり多くの仕事は引き受けられなかったのですが、結果として給料は飲食店時代より多かったですね（笑）

眞山：独立してからご自身でクライアントをとったりはしなかったわけですか？

佐竹：してないです。実はその友人の仕事のサポートをしながらやろうと思っていたのが、先ほどお話した家業の手伝いなんですよね。報酬はほんの少しで、家族の会社の決算を締める手伝いをしたり、監査法人時代はあまりやっていなかった申告書の作成なんかもやって、そこでスキルを蓄積したいという思いがあったんです。

眞山：だんだん、話がつながってきましたね。その後、今の職場に出会うということですね？

佐竹：ご名答です。家業を手伝っている時に気づいたのが、自分の住んでいるエリアの町工場はどこも経営者が高齢で、いわゆる事業承継という共通の課題を抱えていたのです。私の実家は兄が事業を比較的スムーズに引き継いだのですが、その時にコンサルティングをしてくれた税理士法人が、私に声をかけてくれ、よかったら一緒にやってみないか？と。

眞山：面白い縁ですね。佐竹さんのどういう点を買ってくださったのですか？

佐竹：いや、私なんか当時はほとんど専門知識を持っていなかったので…（笑）。ただ、兄が会社を継ぐつもりで若いころから地域活動なんかにも積極的だったので、その地域への営業ルートを間接的に持っていたということはありますね。税理士法人に仲間入りしてから、そっち経由でいくつか案件を獲得することもできたし、手前味噌ながらWin-Winな形になったと思っています。

眞山：Win-Winどころか、それで地域の経営者問題をも解決しているのだから、三方よしとも言えますね。今の職場に落ち着かれてもう5年経つということですが、今後の展望は何かありますか？

佐竹：まさにその地域の経営者問題への取り組みをこれからさらに進めていきたいと思っています。事業承継の一番の問題って、後継者候補が育っていないことだと巷間では言われてますけど、私に言わせればそこじゃなくて、むしろ現任の経営者の引退にあたって、引導を渡してくれる人がなかなかいないってことなんですよ。その点、自分が受けたリストラの肩たたきって、実はいい経験だったんじゃないかと思っています。あの会議室での出来事は本当にショックでしたが、今この道を見つけるまでのプロセスの1つととらえると、必要な出来事でもあった。その経験をしている自分なら、経営者が身を引くときに背中を押してあげることができると思うので。