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論文式試験の対策も、公認会計士の資格取得後のキャリアも、社会人経験が有利に働いた―公認会計士 相亰俊信さんインタビュー[第3回]

論文式試験の対策も、公認会計士の資格取得後のキャリアも、社会人経験が有利に働いた―公認会計士 相亰俊信さんインタビュー[第3回]

一度は公認会計士になる目標をあきらめかけた相亰俊信さんですが、心機一転。事業会社から監査法人に転職し、「1年」と期間を区切って試験勉強を続けました。目標に掲げた通り、自ら定めた期間内に論文式試験に合格。その後は、マネージャー、シニアマネジャーと歴任し、13年にわたって監査法人でのキャリアを全うしました。現在、相亰さんはheyhey Japan株式会社の設立に携わり、経営者として新たな道をスタートさせています。相亰俊信さんのインタビューを計3回にわたってご紹介します。

相亰俊信さんインタビュー

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マイナビ会計士編集部

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プロフィール

相亰 俊信heyhey Japan株式会社 代表取締役

1981年兵庫県生まれ。慶應義塾大学商学部在学中、USCPA(米国会計士)試験に合格。大学卒業後、松下電器産業株式会社に入社。経理担当として連結決算業務を担ったほか、取締役会資料・経営会議資料・IR資料等作成に従事。2006年、あずさ監査法人(現:有限責任あずさ監査法人)に入所。翌年の2007年、公認会計士試験に合格。2010年よりKPMGシリコンバレー事務所に駐在し、現地日系企業の監査やアドバイザリー業務、SEC登録企業の監査等に携わる。2012年帰国。2015年より、グローバル企業のエンゲージメントマネジャーとして、監査計画策定、そしてクロスボーダーM&A、グローバル税金、為替管理といった複雑な会計・監査論点を扱う。リクルート活動、人事などの法人運営にも関わり、2019年退職(最終職位はシニアマネジャー)。2020年、heyhey Japan株式会社の立ち上げに参画し、代表取締役に就任。

事業会社と監査法人。双方の経験があったから試験に合格できた

――改めて、社会人として働きながら公認会計士の試験に合格できた「勝因」はどこにあると思われますか?

試験勉強に関しては、基礎重視の戦略が功を奏したのだと思います。また、事業会社の経理職としての経験・そして監査実務に携わった経験も役に立ったと感じています。

――例えば、どのような経験が役に立ったのでしょうか。

「監査論」で「棚卸立会を実施する時に、事前にどの点に注意すべきか」という問題が出題されたのです。棚卸立会の意義や必要性などは嫌というほど勉強するのですが、具体的にどんなことを注意するべきかということは、当時はあまり授業や答練で触れられていなかったことから、普通の受験生にはイメージがしにくいんですね。しかし、私は監査法人に勤務していたので、日々の業務を通じて、インチャージ担当の会計士から立会に関する具体的な指示をいただいていました。

また、監査論でよく出る「内部統制」。現金出納管理など、経理部門にいたときに嫌というほど注意点を叩き込まれました。出納担当者と記帳担当者と聞いて、「あ、あの部門にいたあの人とあの人か」と具体的にすぐイメージが沸くと理解は深まります。

この点からも、社会人が公認会計士試験に挑むメリットは十分にあると思います。

――実践の場で学んだことが試験に出題されたのですね。

「会計学」でも、同様のことがありました。「連結会社が子会社の所有株式を100%から70%に減らし、その後15%に減らした場合、売却益などの処理をそれぞれどうするべきか」という問題なども、このようなケースは実務で頻繁に扱います。

私が所属していた本社経理部では、会計士ではない当時の経理部長・課長などの上司の方が、当たり前のように、「そうなったら〜〜に売却益が〜〜億円、実現やな」ということを議論し、監査法人とも議論を進めていました。

このようなことも、実際に実務を積んでいたら、その際の注意点などもわかるという点は強みかと思います。

――事業会社時代の経験も活かせていると思いますか?

はい。私が事業会社に在籍したのは2年半とそれほど長くありませんが、それでも大手事業会社で経験を積んでよかったと感じています。会社がどのような部門で編成され、どのように事業活動を進めているのか。内部統制一つとっても、どのような人たちが組織を管理し、不正を防いでいるのかといったことを自分の目で見てきましたから、理解の度合いが違うと思います。

私が監査法人に中途入社し、(今ではあまりないと思いますが(笑))、研修を数日受けて職場挨拶に行くと航空チケットを渡され、いきなり工場での内部統制往査でした。まだ監査調書の書き方もたいしてわからない中途入社の私とタッグを組まされた先輩には非常に迷惑をおかけしてしまいましたが(笑)。

仕事内容は、原材料の購買プロセスや固定資産プロセスのウォークスルーでした。具体的にプロセスを追っていくと、注意点などが見えてきて、監査調書の書き方はわかりませんでしたが(笑)、注意すべき点などはしっかり理解できていて、先輩にも少し褒めていただき、事業会社の経験が活きたと実感したことを記憶しています。

時間とお金の重みを知っている社会人だからこそ、1日1日を無駄にしない

時間とお金の重みを知っている社会人だからこそ、1日1日を無駄にしない

――では、社会人として働きながら公認会計士の資格を取得するメリットはどこにあると思いますか?

時間とお金の重みを知っていることでしょうか。自らの生活費を自分で稼いでいる社会人だからこそ、1日1日を無駄にせず、試験勉強に没頭することができたのだと思います。

――社会人として経済的に自立しているからこそ、わかることがあるのですね。

近年、情報化が進んだこともあり、学生時代に公認会計士に合格して新卒で監査法人に就職するケースが増えています。そのため、社会人経験者が会計士受験に挑戦したり、年齢が高くなって監査法人に就職することに不安を感じる方も多いかと思います。

ただ、公認会計士は、クライアントである企業からすると何歳であっても「会計士」。監査(Audit)という単語は、聴く(Audio)から派生したと言われています。我々の仕事では何よりも、クライアントと話して聞いて、ためになることを助言する、そしてハートを掴むことが非常に大事です!社会人経験者の強みは、そのクライアントの実情を理解できることです。

具体的には、当たり前のビジネスマナーだけでなく、例えばクライアントの組織構造がどうなっていて、指摘事項などが出た時に、これは言った方がためになる、これは言っても仕方ないけど書面には残さなければならない、書面に残すとどんな影響が出てしまうか、といったことまで理解できている会計士はクライアントからも必ず一目置かれます。これらから、社会人が働きながら公認会計士を目指すメリットになると思います。

――では、逆にデメリットはあると思われますか?

監査法人は、基本的には入所年次によってその後のキャリアが決まります。明らかに飛び抜けた社会人経験などがあった場合には飛び級などの制度もありますが。 そのため、例えば30代前半に公認会計士の勉強を始め、30代半ばで公認会計士試験に合格したとします。同じように公認会計士試験に合格し、監査法人でキャリアをスタートする「同期」が、自分より年下になる可能性もあります。年下の会計士と横並びでキャリアがスタートするということはデメリットかもしれません。ただ、多くの方は何かしらの目標があって会計士を受験し、監査法人に就職(修行?)していることから、あまり気にしている人は多くないと思います。

働きながら公認会計士試験合格を目指す社会人の皆さんへ

働きながら公認会計士試験合格を目指す社会人の皆さんへ

――公認会計士試験に合格したことで、その後のキャリアはどのように拓かれていきましたか?

多くの会計士がそうであるように、私も監査業務を2~3年経験した後、新しい分野に挑戦したくなりました。タイミングよくチャンスをいただき、上場会社のインチャージとして数名のスタッフの仕事を管理することも。その後も、海外駐在も経験し、その経験を活かしてグローバル企業のグループ監査にどっぷり浸ったり、法人運営にも関わらせていただいたりしました。相談に乗ってくれて支えてくれるメンターがいて、成果を出すことによってそれに応えてくれたことから、理想とするキャリアを築けたたかと思います。

――2019年にそれまで勤めてきた監査法人を退職し、起業されたそうですね。

2020年夏頃からheyhey Japan株式会社(以下・heyhey Japan)を立ち上げ、俳優やミュージシャン、モデル、タレント、アスリート、YouTuberなど、世界中のタレントとファンをつなぐビジネス立ち上げに携わり、2021年3月にサービスローンチしました。今後は、より多くのタレントとファンにこのサービスに触れていただき、日本にとどまらずアジア、アメリカとグローバルに展開をしていきたいと考えています。

――起業にあたって、公認会計士の資格や監査法人での経験を生かせていますか?

heyhey Japanの起業にあたっては、タレントさん開拓などはもちろんのこと、投資家への資金調達活動などで具体的な将来事業計画、資金利用目的、企業価値などと会計・税務・ファイナンスの幅広い知識が必要になりますが、代表取締役の私が公認会計士の有資格者であることは一つの信頼要素になったのではないかと思います。グローバル本社の社長であるCalebや他のグローバルチームのメンバーとは英語で、事業内容や展開するエリアなど事業計画についてを話すことになるので、「会計士として経験を積んできてよかった」と何度も感じています。特に海外駐在経験を現在のビジネスに大いに生かすことができています。

――これから公認会計士を目指そうと考えている社会人の方々に伝えたいことは?

厳しい言い方になるかもしれませんがこの時代、公認会計士の有資格者になっただけでは一生食べていけるようなモノではありません。有資格者になり、どのようなキャリアを築いて、何ができるか、ということが大切です。キャリアを抱くにあたっては、実際にさまざまな分野で活躍している公認会計士に会って話を聞くのが最も有効です。さまざまな有資格者をロールモデルにし、強い信念をもって勉強に励んでいただけたらと願っています。

――最後に、仕事と勉強、プライベートを両立するうえでのポイントがありましたら、ぜひお聞かせください。

自分にとってのベストなバランスを見極め、それを実行することが大切だと思います。公認会計士の試験日までの期間は限られています。試験勉強を最優先させますが、自分を追い込みすぎると息が詰まってしまうでしょう。最後まで高いモチベーションを維持するためにも、「プライベートな時間をどの程度入れたら勉強に集中できるのか」と自分自身の心に問いかけ、自分で決めたルールに従って実行すること。合格するまで諦めずに頑張ってください。

――働きながら公認会計士の勉強を続け、資格取得後も着実にキャリアを築いてこられた相亰さんの言葉は、これから公認会計士の勉強をスタートさせる社会人の皆さまの心に深く響いたことと思います。本日はお忙しいなか、ありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございます。

相亰俊信さんインタビュー

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