公認会計士の年収の現実|収入差がつくキャリアの選択肢は
公認会計士を目指して勉強中の方、資格取得後に「思ったより年収が伸びない」と感じている方にとって、気になるのは「平均年収の数字」よりも「実際に食べていけるのか」という現実ではないでしょうか。
検索すれば強気な高年収情報も悲観的な体験談も出てきますが、まず大切なのは、公的統計と公式資料でわかる範囲を正確に把握することです。
本記事では、厚生労働省の職業情報提供サイト『job tag』を軸に、日本公認会計士協会(JICPA)と金融庁系の資料でキャリアの広がりや昇進構造を補いながら、年収の実態を整理します。平均年収の見方、「食えない」といわれる理由、監査法人の給与構造、そして年収を伸ばすキャリア戦略の順に解説していきます。

三宅 啓之
公認会計士、税理士
1997年公認会計士2次試験合格。2002年公認会計士登録。2012年税理士登録。
監査法人やコンサル会社での経験を経て、2012年に独立。起業家の成否を間近で見てきた経験から、現在はITや飲食など幅広い業種の経理サポートを行っています。
特に「役員報酬の決定」「効果的な投資」「税務調査対策」の3点に注力し、起業3〜5年目の経営者を支援。公私の資金分離など経理の基礎を伝えることで、事業の成長を加速させています。経理が苦手な起業家の心強い「伴走者」として、日々活動中です。
目次
公認会計士の平均年収はどこまで現実に近いのか
公的統計に示される平均年収は、公認会計士の収入水準を知る手がかりになります。ただし、ひとつの数字だけでは、若手・中堅・ベテランの違いまでは見えません。
ここでは、まずjob tagに掲載されている全国平均を確認し、続いて経験年数別の所定内給与額から、入社後の収入がどのように変わるのかを整理します。
公認会計士の平均年収810.8万円はどう見るとよい?
job tagによれば、公認会計士の平均年収は全国810.8万円です。この数値は令和7年『賃金構造基本統計調査』をもとに作成されていますが、「公認会計士が属する職業分類」全体の平均であり、公認会計士だけを厳密に切り出したものではありません。
そのため、810.8万円は資格取得直後に届く数字ではなく、職業分類全体の平均値として捉える必要があります。年収の実態をつかむには、平均値そのものよりも、経験年数によって給与水準がどう変わるかを見るほうが現実に近いでしょう。
入社後の年収推移は経験年数でどう変わる?
公認会計士の収入水準を現実的に見るために、経験年数別の所定内給与額も確認します。job tagの『経験年数別の所定内給与額』グラフでは、以下のように推移していました。
- 経験年数0年:41.09万円
- 経験年数1〜4年:41.64万円
- 経験年数5〜9年:45.46万円
- 経験年数10〜14年:53.78万円
- 経験年数15年以上:71.57万円
所定内給与額は、毎月決まって支給される給与額を示すもので、賞与や残業代などは含まれません。そのため、この数字だけで年収を判断することはできませんが、経験年数が増えるにつれて月例給与の水準が上がっていく傾向はしっかりと読み取れます。
なお、監査法人への就職直後の初任給は一般企業と比べて高い傾向がありますが、今後の動向は注視が必要です。
公認会計士が「食えない」と評されるのはなぜか
「食えない」という検索語が目立つのは、資格の価値が低いからではなく、若手の実感と外から見えるイメージがずれやすいからではないでしょうか。そこで本セクションでは、若手の収入感、資格取得後の評価、働き方とのギャップに分けて整理します。
若手の年収が低く感じやすい理由
公認会計士は難関資格だけに、合格後すぐに高収入が得られるイメージを持ちやすいかもしれません。しかし、キャリア初期は監査や会計実務の基礎を固める段階であり、資格取得だけで役職や担当領域が一気に広がるわけではありません。
最初の数年は収入を大きく回収する時期というより、監査手続きやクライアント対応、会計基準への理解を深めながら市場価値を高める期間です。「資格を取ったのに年収が伸びない」と感じやすいのはこのためで、公認会計士の価値が低いからではありません。
資格を取っただけでは年収が伸びにくい理由
JICPA(日本公認会計士協会)の『組織内会計士アンケート2023』によれば、組織内で働く公認会計士に対し、公認会計士資格のない人と比べた待遇を尋ねたところ、「関係ない」が66%、「有利な待遇となっている」が30%という結果が出ています。
参照:組織内会計士が置かれている状況~実態調査アンケートより~ 組織内会計士アンケート2023|日本公認会計士協会
つまり、事業会社などの組織内で働く場合、公認会計士資格を持っているだけで待遇が自動的に上がるとは限りません。組織内では、会計の専門性を持ちながら、それを組織への貢献にどうつなげるかが問われます。会計知識をベースとしつつ、「会社を経営するとはどういうことか」という視点を身につけていくことが、評価や待遇の向上につながりやすいでしょう。反対に、資格取得後も役割や担当範囲が広がらなければ、待遇や年収に反映されにくい場合があります。
年収への不満が出やすいのは働き方とのギャップがあるから?
「食えない」という不満は、年収の低さだけでなく、働き方との釣り合いから生まれることもあります。job tagでは公認会計士の月間労働時間は全国150時間とされていますが、繁忙期の負荷や勤務先ごとの差までは読み取れません。
そこで参考になるのが、日本公認会計士協会近畿会の『公認会計士のワーク・ライフ・バランスとキャリアに関するアンケート調査結果(2022年版)』です。「定時で帰りやすい雰囲気」が77.4%、「有給休暇を取得しやすい雰囲気」が82.0%と、環境面では一定の改善が見られます。一方で、残業している人のイメージとして「責任感が強い人」が59.6%、「頑張っている人」が54.0%を占めています。「数字に誤りがあってはならない」という使命感や職業的専門家としての責任感が、残業をいとわない姿勢につながっているのかもしれません。そうした姿勢は、監査法人の職員であっても周囲から評価される資質として根づいているようです。
30歳以下の分析でも仕事量の多さが指摘されており、若手ほど「仕事が多くて定時で帰れない」「周囲に合わせて残業してしまう」と感じやすい状況があるようです。
参照:公認会計士のワーク・ライフ・バランスとキャリアに関するアンケート調査結果ー2022年版ー|日本公認会計士協会近畿会
Big4(大手)と中小監査法人、選ぶ規模でキャリアはどう変わるのか
公認会計士のキャリアは、どの監査法人で経験を積むかによって大きく異なります。大手監査法人では大規模企業やグローバル案件に関わる機会があり、組織内で昇進を目指すルートも整っています。一方、準大手や中小監査法人では組織規模が小さい分、担当範囲が広く、意思決定に近い位置で働きやすい面があります。

三宅 啓之
公認会計士、税理士
大手監査法人には、監査の仕組みだったり、専門的知識の集積といった、大手監査法人ならではの良さがあります。
一方、中小監査法人には、専門化されていない分、全体を見通す力が身につくとか、アットホームな組織運営をしているとか、中小監査法人ならではの良さがあります。
どんな専門職を目指しているかなど、自分のスタイルに合わせて選んでいけばよいと思います。
ここでは、監査法人を「入るか辞めるか」という視点ではなく、どの規模の法人でどんな役割を担うかという観点で整理します。
監査法人が初期キャリアの王道になりやすい
日本公認会計士協会の報告書によれば、現状ではほとんどの公認会計士試験合格者が監査法人に就職し、業務補助を通じて実務経験を積んでいるとされています。
参照:公認会計士の一体的能力開発に関する報告書(2025)|日本公認会計士協会
監査法人が初期キャリアの有力な選択肢になりやすいのは、監査・会計の実務を集中的に経験できるためです。財務諸表監査、内部統制、会計基準への対応、クライアントとのやり取りなどを通じて、公認会計士としての土台を作りやすくなります。
また、監査法人で得た経験は、その後のキャリアにもつながります。金融庁の資料でも、公認会計士の活躍先として、監査法人だけでなく、独立開業、事業会社、官公庁などが示されています。実務経験も、一定の条件を満たせば一般事業会社や官公庁での業務も対象になります。
そのため、監査法人での経験は、監査法人内で昇進するためだけのものではありません。一般企業の経理・財務、内部監査、金融機関、官公庁、独立開業などへ進むうえでも、公認会計士としての基礎になる経験と考えられます。監査を通じて会計の最終的な成果物を見据える視点が身につくため、その後に経理業務などに携わる際にも十分に活きてくるでしょう。
Big4で昇進差が生まれやすい構造
Big4を含む大手監査法人では、昇進の階層が明確に定められています。公認会計士・監査審査会の『モニタリングレポート』によれば、スタッフ、シニアスタッフ、マネージャー、シニアマネージャーを経て、選考を通過した者が社員(パートナー)に登用される流れが一般的です。
また、令和6年度のデータでは、大手監査法人の社員数は約240〜570人、常勤職員数は約3,300〜7,700人とされています。これは昇格率そのものを示す数字ではありませんが、社員・パートナー層が常勤職員数に比べて相対的に少ないことは読み取れます。
こうした構造を踏まえると、Big4は「入れば一律に高年収になる場所」ではなく、役割と責任が上がるほど報酬に差が生まれる場所と考えるほうが現実的です。そのため、Big4でのキャリアを考える際は、ブランドや初任給だけでなく、昇進の仕組み、専門領域の作り方、マネジメント経験を積めるかどうかまで確認しておくことが重要です。
参照:令和7年版モニタリングレポート|公認会計士・監査審査会
準大手や中小監査法人へ移る選択肢
準大手や中小監査法人は、組織規模や意思決定の仕組みが大手と異なります。大手が複数の専門部門を設けるのに対し、中小では主要業務を担当する社員を任命するケースが一般的です。担当領域が広がりやすく、経営や品質管理に近い位置で経験を積める点が特徴といえます。
また、中小監査法人では合格者の採用が難しいこともあり、大手出身の公認会計士を中途採用するケースが多く見られます。新規設立の法人も、大手退職者が立ち上げる例が目立ちます。
参照:令和7年版モニタリングレポート|公認会計士・監査審査会
監査法人キャリアは「大手に残るか辞めるか」だけではありません。年収を伸ばすうえでも、法人の規模より自分がどの立場でどの経験を積めるかを見極めることが重要です。
公認会計士が年収を伸ばすための3つのキャリア戦略
公認会計士が年収を伸ばす道は、監査法人で昇格するルートだけではありません。監査法人に残って責任範囲を広げる方法もあれば、事業会社で経営に近いポジションを目指す方法、独立して自分で収益源を作る方法もあります。
ここでは、監査法人、事業会社、独立開業の3つに分けて、収入を伸ばすためにどのような経験や役割が必要になるのかを整理します。
監査法人に残って昇格を目指す
監査法人で年収を伸ばすには、在籍年数よりも担える責任の範囲が重要です。マネージャー以上になると、作業者としての役割から、チーム管理・難度の高い論点への対応・経営陣との折衝へと仕事の中心が移ります。
報酬は「長く在籍した人」より「より大きな責任を担える人」に寄りやすい構造です。年次による評価を待つだけでなく、複雑な案件への対応力やチームを動かす力を早めに身につけることが、昇格と収入アップの近道になります。
参照:令和7年版モニタリングレポート|公認会計士・監査審査会
事業会社へ転職してCFO候補ラインを狙う
事業会社への転職は、監査法人を離れる消極的な選択ではなく、専門性を経営に近い領域へ広げるキャリアの分岐です。日本公認会計士協会のQ&Aでも、監査法人勤務後に一般企業の財務責任者・金融機関・官公庁・独立開業へ進む道が示されており、財務部門や経営企画、IPO関連業務で活躍する公認会計士が増えています。
転職理由を見ても、給与や残業・休日への不満よりキャリアアップを志向した人が多い傾向にあります(組織内会計士アンケート2023)。事業会社への転職は、給与不満による離脱というより、より広い経験や次の役割を求める動きとして捉えるのが自然です。
CFO候補ラインに近づくには、監査経験をそのまま持ち込むだけでは不十分です。決算・開示、内部統制、IPO準備、管理会計、経営数値の説明など、意思決定に関わる業務へ経験を広げ、経営陣や他部門に数字の意味を伝えられる人材になることが求められます。監査法人で培った正確性や内部統制の視点を経営管理や財務戦略に接続できれば、CFO候補としての評価にもつながりやすいでしょう。

三宅 啓之
公認会計士、税理士
職業的専門家としての知識に、実務経験を加えて、組織に貢献できるというところが、一番大事なような気がします。
参照:組織内会計士が置かれている状況~実態調査アンケートより~組織内会計士アンケート2023|日本公認会計士協会
独立開業で収入の上振れを狙う
独立開業は、平均年収の延長線上で考えるより、自分で顧客と業務を作る経営者ルートとして見たほうが現実に近いです。業務の幅は広く、日本公認会計士協会のQ&Aでは監査・税務・コンサルティング・M&A・上場支援が主な業務として挙げられています。独立後の具体例としては、税務・会計支援を軸に、保証業務、M&Aアドバイザリー、株価算定、事業計画作成支援などを手がけるケースも見られます。
独立後の収入は、勤務先の給与テーブルではなく、顧客数、単価、継続案件の有無、提供できる業務の幅によって変わります。複数の業務を組み合わせられれば収入を伸ばせる余地はありますが、安定的に案件を獲得できなければ収入が読みにくくなる面もあります。

三宅 啓之
公認会計士、税理士
中小監査法人の非常勤や、公認会計士向けの求職プラットフォームサービスなどを活用して、独立直後の収入不安を乗り越えるケースが多いようです。
そのため、独立開業は「高年収になりやすい道」というより、収入の上限もリスクも自分の経営力に左右される選択肢です。専門性に加えて、営業力、顧客との関係構築、継続案件の設計、業務品質の維持が求められます。年収アップを狙える可能性はありますが、安定した給与を受け取る働き方とは異なる点を理解しておく必要があります。
転職前に確認!年収だけで判断しないためのチェックポイント
公認会計士が転職する際は、提示年収だけでなく、入社後に任される役割や積める経験まで確認することが大切です。決算・開示、内部統制、IPO準備、経営企画、経営層へのレポーティングなどにどこまで関われるかは特に重要で、CFO候補や管理部門責任者を目指すなら、経営判断に近い業務を経験できる環境かどうかを見ておきましょう。
合わせて、協会会費やCPDの扱い、繁忙期の残業、リモートワークの可否なども確認しておきたい項目です。転職理由が「今の給与への不満」なのか「将来の頭打ちへの不安」なのかによっても、選ぶ求人は変わります。
求人票だけでは実際の担当範囲や職場の働き方まで把握しにくいこともあります。公認会計士の転職事情に詳しいエージェントを活用すれば、年収だけでなく将来のキャリアにつながる求人かどうかも判断しやすくなります。
まとめ
公認会計士の年収は、平均年収の数字だけでは実態を判断しきれません。資格取得直後や若手の段階では、思ったほど収入が伸びないと感じることもありますが、経験年数、勤務先、役職、担当できる業務の範囲によって収入水準は変わっていきます。
年収を伸ばすには、監査法人で昇格を目指す、事業会社でCFO候補ラインを狙う、独立開業で収益の幅を広げるなど、複数のルートがあります。大切なのは、目先の提示年収だけでなく、将来どのような経験を積めるかまで見て判断することです。
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三宅 啓之
公認会計士、税理士
修了考査を経て、公認会計士登録できるようになってからが、スタートラインです。それまでに、どれだけ実務を身につけて、座学の知識を実務に落とし込めるようになるかが、とても大切です。