会計士の一般的な職場として監査法人や会計事務所・税理士法人などがありますが、近年増えているのは、一般事業会社などの経理部門・内部監査部門へ配属される、組織内会計士としての転職です。
そこで、組織内会計士の業務内容や監査法人との違いのほか、転職する際に注意すべきポイントなどについて詳しく解説します。

目次

組織内会計士とは ?

組織内会計士とは、それまで会計士の一般的な職場とされていた監査法人や会計事務所・税理士法人とは違い、一般企業をはじめとした官公庁・地方公共団体、非営利団体、教育機関などに雇用されている会計士を指します(非常勤を含む)。

日本公認会計士協会には、組織内会計士ネットワーク があり、2018年12月末の時点で1,745人が正会員として登録しています。2014年12月末時点では、正会員数は985人であったことを考えると、近年の組織内会計士の急増ぶりが伺えます。

なお、1,745人の 正会員のうち、上場企業に所属している人が878人、非上場企業に所属している人が686人と、組織内会計士の多くが一般事業会社で活躍していることがわかります。

組織内会計士は増えている

組織内会計士が増加するきっかけとなったのは、2008年のリーマンショックでした。この時期に監査法人が採用を絞り込んだため、一般事業会社に就職せざるをえない会計士が急増しました。

景気が回復した現在では、監査法人への就職・転職は売り手市場となっていますが、それでも組織内会計士が増加しています。その背景には、監査法人以外に活躍の場を求める会計士が増加していることと、高度な会計スキルを持った会計士を求める企業側との需給バランスがとれていることが考えられます。

企業側が組織内会計士を求める理由には、次のような点が挙げられます。

<組織内会計士を求める理由>
・企業内に、難度の高い会計業務の知識を持った人材が不足している
・会計知識を利用して、将来の予算や見通しを立てられる力のある人材を必要としている
・IFRS(国際財務報告基準)の知識や経験があり、わかりやすく解説できる人材を求めている
・組織内会計士を置くことで、従来アウトソーシングしていた経理業務の経費を削減できる
・M&A、海外進出、IPO(新規上場)を狙う企業では、専門知識を持ち、実務処理できる人材を必要としている

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組織内会計士のおもな業務内容

専門性があり、難度の高い仕事が求められる組織内会計士ですが、具体的にどのような業務を任されるのでしょうか。組織内会計士の具体的な業務内容について、詳しく解説していきます。

経理業務

組織内会計士が担当する経理業務は、税効果会計のほか、個別決算 や連結決算といった決算業務などが中心となります。

税効果会計 とは、会計上の利益と見合っている税金費用が計上されるように、「企業会計」と「税務会計」のずれを調整しながら、適切な期間配分をする会計手続きのことを指します。

連結決算 は、決算業務の中でも専門性の高い業務です。通常の一般的な決算業務は、一企業の単独決算となりますが、連結決算では親会社だけでなく、国内外の子会社や関連会社も含めたグループ全体の決算業務となります。債権・債務 の相殺、資本連結、連結パッケージの作成等、難度の高い業務を担当することになります。

このほかに、投資家向けに有価証券報告書を作成する開示業務 や、監査法人との調整、IFRSの導入、海外子会社とのやりとりなども、組織内会計士に求められる業務です。

財務業務

監査法人においては、クライアントの予算作成に際してのアドバイス業務が中心で、会計士が実際に予算を作成することはありません。しかし、一般事業会社では、予算作成をはじめとした財務全体に直接携われることが大きな違いです。そして、会計士としてのキャリアを築く上でも大きなメリットになります。

一般事業会社における財務業務には、おもに次のようなものがあります。

・財務戦略の立案

調達した資金をどのように活用するか、予算も含めて経営戦略を立案します。

・資金調達

企業経営のために必要な資金を調達することも、組織内会計士の業務です。資金調達の方法としては、金融機関からの融資、投資家から資金を募るための社債 (有価証券)の発行、資本増資をするための株券の発行、M&Aによる資金調達などがあります。ほか、銀行などの金融機関や格付機関への対応も、資金調達業務に含まれます。

・資金や投資の管理

企業が保有している資金や投資の管理も、組織内会計士の業務です。

管理する資金には現預金や国債、投資有価証券(長期保有している債券や子会社株式・関連株式等)などがあります。また、投資管理では、どのような事業に投資して企業・事業の価値を最大化するか、新規の投資枠の検討などがおもな業務となります。

管理会計(FP&A)を含む経営企画

管理会計(FP&A)とは、業務管理、財務計画の立案、財務データの分析をトータルに行う職種や業務を指します。FP&Aとは、Financial Planning&Analysis(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)の略で、おもに外資系企業に見られるポジションです。

FP&Aの仕事は、経営企画と密接につながり、具体化していく業務が多くなります。経営計画では市場ニーズの調査や自社と競合他社の営業データの分析のほか、それらを基にした立案・管理、新規事業の立ち上げ、M&Aの実行などを行います。

こうした企業戦略の実施に即して、FP&Aも必要な財務データを提出したり、予算や売上予測を照らし合わせながら実績のモニタリングを行ったりします。

内部監査

内部監査の業務は、監査計画の立案や、監査手続書 に基づく監査の実施、監査調書の作成など、監査法人の業務に通じる部分が多いことが特徴です。そのため、監査法人での経験を活かして、30代後半〜40代で一般事業会社の内部監査部門のマネージャーとして転職するケースもあります。

近年では、大手企業の会計トラブルなどを受けて、企業の財務や経理に対する監視の目が強まっています。そのため、一般事業会社の内部監査役と監査法人との連携強化が行われており、その業務に最適な人材や、海外子会社の監査に対応できる人材、監査の結果を踏まえて社内での業務改善や指導等ができる人材に対するニーズが高まっています。また、外資系企業では従来から内部監査を重視しているため、常に一定の求人ニーズがあります。

税務調査対応

税務調査対応は、監査法人ではほとんど経験できない、組織内会計士の独自業務のひとつで、税務調査に対応することをいいます。税務調査には、脱税などの疑いがなくても税務署により定期的に行われる「任意調査」と、脱税の疑いがある法人などに対して、いわゆるマルサ (国税局査察部)が強制的に立ち入り調査を行う「強制調査」があります。

税務調査に対応する担当者は、税務調査官とのやりとりが必要となるため、論理的に説得できるだけの会計に対する知識や説得力、コミュニケーション能力などが求められます。

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組織内会計士に転職するメリット・デメリット

ここまで、組織内会計士の業務内容についてご説明してきました。監査法人との業務の違いについても解説してきましたが、一般事業会社などの組織内会計士への転職には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

組織内会計士に転職するメリット

組織内会計士に転職するメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

・公認会計士としてのキャリアやスキルを発揮できる
・ビジネスにダイレクトに関われるため、仕事のやりがいが実感できる
・監査法人やコンサルティングファームでは経験できないキャリア形成が可能
・安定的に長期にわたって働ける職場が多い
・ワークライフバランスがとりやすい
・借り上げ社宅など、大手企業を中心に福利厚生が充実している
・ベンチャー企業に転職した場合、より経営に近い仕事が経験でき、有効なキャリアが積める
・営業やエンジニアなど、会計分野以外の専門人材と関わることで、将来的に役立つ人脈を形成できる

一般事業会社の場合、企業規模により福利厚生なども大きく異なります。自分のライフスタイルや将来の独立・起業など、長期的な視点に立って、転職先を選択することが重要です。

組織内会計士に転職するデメリット

一方、組織内会計士へ転職するデメリットには、次のようなものが挙げられます。

・監査法人と比較して、年収がダウンするケースが多い
・全国や海外へ事業を展開している企業では、地方や海外へ転勤させられるリスクがある
・組織内会計士はスペシャリスト採用ではあるものの、キャリアと関係ない部署へ異動を命じられるリスクがないわけではない
・最新の会計基準や業界動向のキャッチアップが難しくなり、監査法人への再転職も難しくなる

一般事業会社に転職する場合、一番のネックとなるのは年収ダウンのリスクです。年収を維持しながら一般事業会社へ転職する場合は、CFOを目指すなど、組織内会計士の枠を超えたポジションも視野に検討していくといいでしょう。

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組織内会計士へ転職する際の注意点

監査法人などで監査業務に従事してきた会計士にとって、一般事業会社への転職は大きなキャリアの転換点となります。そこで最後に、組織内会計士に転職する際の注意点についてご紹介します。

一般事業会社への転職に迷いはないか?

監査法人から転職する場合、転職先としては一般事業会社以外にも、コンサルティングファームや金融機関、さらには独立開業など、多様な選択肢があります。キャリアパスだけではなく、ライフスタイルとも照らし合わせて、一般事業会社への転職に迷いはないか、慎重に検討しましょう。

  

転職先に会計士の採用実績はあるか?

転職先に組織内会計士の採用実績があるかどうか、面接の際などに必ず確認しておきましょう。それまで社内で一般的な経理や税務はこなしてきたものの、より専門性の高い組織内会計士の採用実績がなかった企業では、すべてをゼロから立ち上げなければならないかもしれません。

そうした場合、自分で社内業務を確立できる可能性や、同じポジションのライバルがいないため、実績を挙げれば昇進につながりやすいといったメリットがあります。しかし、組織内会計士をどう扱ったらいいのかというノウハウが経営者側にない場合、その専門性が活かされず、宝の持ち腐れにならないとも限りません。事前に採用実績があるか、具体的にどのような業務を担当するのかを確認しましょう。

  

やりたい業務と担当する業務にギャップはないか?

組織内会計士の業務内容は、企業の規模や形態によって異なります。帳簿付けのような一般的な経理業務をこなすことを期待される場合もあれば、専門知識を活かして経営戦略まで手掛けることを求められる企業もあります。

転職前に自分がどんな業務を行いたいかを明確にし、企業側から求められる役割とのあいだにギャップがないか、しっかり見極めることが大切です。

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転職エージェントを賢く活用して組織内会計士になる!

一般事業会社への転職では、組織内会計士として担当する業務がどのようなものなのか、事前に確認し、検討することが重要です。しかし、企業の内部情報を個人で収集するのは、やはり限界があります。面接まで進んで直接聞いてみることもできますが、それでも知りうる情報はほんの一部分かもしれません。

そこで、うまく活用したいのが会計士専門の転職エージェントです。マイナビ会計士では、会計士の業界事情に詳しいキャリアアドバイザーがあなたの転職をサポートいたします。求人を出している企業の情報にも精通しているほか、カウンセリングを重ねることで、自分でも気付かなかったスキルやキャリアを再発見でき、それに見合った転職先をご紹介します。

組織内会計士の数は、年々増加傾向にあります。外資系企業と同様に、国内企業においてもそのポジションが今後ますます重要になることが予想されています。会計士の新たなキャリアである組織内会計士という働き方を実現させるために、ぜひマイナビ会計士をご利用ください。

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