さまざまな要因から経営悪化に陥った企業の「再生」を推し進める「企業・事業再生系コンサルティングファーム」。会計士はもちろん、外資系金融機関や総合商社など、幅広いバックグラウンドをもつプロフェッショナルが活躍しており、人気の転職先の一つとなっています。

そこで今回は、企業・事業再生系コンサルティング業界について特集。市場動向や業務内容、給与水準、さらには会計士に対する採用ニーズなど、詳しくご紹介いたします。

目次

企業・事業再生系コンサルティング業界の市場動向

感染症拡大により、多くの企業が経済悪化を強いられる

近年の日本経済をふりかえってみると、2008年のリーマン・ショックに端を発した世界規模の金融危機や、2011年に発生した東日本大震災による経済損失など、数々の経済的苦境に立たされてきました。加えて、企業の経営形態および企業を取り巻く環境が年々、複雑化・多様化しており、このような変化に対応しきれず、業績不振や資金不足に陥る企業も少なくありませんでした。

さらに、新型コロナウィルスの感染症拡大により、多くの企業が大きなダメージを受けています。海外に製造拠点をもつメーカーが生産の一時ストップを余儀なくされるなど、事業活動の縮小や経営悪化に苦しむ企業も少なくありません。

企業・事業再生のニーズは今後さらに高まっていく

企業・事業再生系コンサルティングファームは、経営悪化に苦しむ企業に対して、財務や人事、事業構造などさまざまな視点から経営悪化の原因を分析し、事業再生に向けたソリューションを構築・実行支援をしていきます。

新型コロナウィルスの新規感染者数が再び拡大傾向にあることを考えると、今後も経済活動に大きな影響を与えることが予測されます。特に地方は人口減少も相まって、経済活動が加速度的に低迷する可能性も否めません。

一方、新型コロナウィルスにより生活様式が一変し、いわゆる「巣ごもり需要」の拡大などにより、急速に利益を伸ばしている企業もあります。

このような状況の中、企業・事業再生系コンサルティング業界のニーズはますます高まっていくことが考えられます。経営悪化の企業に対するコンサルティングはもちろん、企業が成長を加速していくためのコンサルティングにおいても、今後さらに多くの需要が見込めると言えるでしょう。

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企業・事業再生系コンサルティングファームの採用ニーズ

多くのコンサルティングファームが、会計士の転職を歓迎している

企業・事業再生系のコンサルティングファームへ転職する場合、監査業務のように公認会計士の国家資格は必ずしも必要ではありません。そのため、外資系の金融機関や総合商社出身など、さまざまなバックグラウンドをもった求職者が企業・事業再生系のコンサルティングファームへの就職を目指して、転職活動を行っています。

前述のとおり、企業再生や事業再生のコンサルティングは、多角的な視点から事業再生のためのソリューションを構築していきます。特に業務改善においては、コスト削減や資産売却、財務再構築など財務や税務の問題に切り込んでいくことになるため、企業・事業再生系のコンサルティングファームの多くが、財務・税務の専門性を備えた公認会計士や税理士を歓迎しています。

ファームや案件の規模によっても、採用ニーズが異なる

また、企業・事業再生系のコンサルティングの場合、中小企業に対するコンサルティングと、大手企業に対するコンサルティングとでは、求められるスキルが異なります。たとえば大手企業の事業再生になると、海外にある生産拠点や営業拠点をリストラクチャリングすることもありえます。そのため、大手企業の事業再生を多く手掛けているコンサルティングファームの採用ニーズとして、語学力を求めるケースもあります。

企業・事業再生系のコンサルティングは、経営不振に苦しむ経営者の気持ちに寄り添いながら、事業再生の道筋を立てていきます。経営者と向き合い、経営者の本音を引き出していく「真摯な姿勢」「コミュニケーション力」を持った方、経営者の要望に応えていく「フットワークの軽さ」を持った方も、採用のニーズが高いと言えるでしょう。

いずれにしても、財務の専門性を備えた公認会計士の採用ニーズが高いことに変わりはありません。どのファームも積極的に採用している傾向にあるので、この業界を志望している方は自信を持って転職活動に臨んでいただければと思います。

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企業・事業再生系コンサルティングファームで求められるスキル・能力

財務に特化したアドバイザリーを行うFASとの違い

企業・事業再生のプロセスの中で、会計士の皆さんに馴染みが深いのは、「財務デューデリジェンス」ではないでしょうか。BIG4監査法人系のFAS(ファイナンシャルアドバイザリーサービス)のように、財務デューデリジェンスを中心に財務面のアドバイザリー専門に担うファームもあり、FASもまた人気の転職先の一つとなっています。

企業再生や事業再生において、財務デューデリジェンスは初期段階で実行する1つのプロセスに過ぎません。企業・事業再生系コンサルティングファームは、事業再生の全プロセス・全範囲を一気通貫で担う点が、FASとの大きな違いになります。

財務の専門性も含めて、幅広いスキル・能力が求められる

そのため、企業・事業再生に携わるコンサルタントは、財務の専門性に加えて、現状を分析する力や論理的思考力、課題解決力など、幅広いスキル・能力が求められます。事業再生が会計士だけのフィールドではなく、外資系金融機関や総合商社など、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が活躍しているのは、それだけ幅広いスキルが求められているからこそ。企業・事業再生系コンサルティングファームへの転職を検討している会計士の皆さんは、この点を十分に理解しておくことが大切です。

しかし、採用に関しては、会計士の有資格者が他の求職者と比較して圧倒的有利であることは変わりありません。なぜなら、経営悪化の要因の多くが「財務・会計面」にあるからです。中でも監査経験のある会計士は、財務・会計面から経営悪化の要因を探っていくスキル・能力があると判断され、採用に至るケースが多い傾向にあります。

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企業・事業再生系コンサルティングファームの年収・給与水準

前職の経験や職位、年収に準じて、転職後の給与が決まる

一般的に、コンサルティングファームへの転職は、求職者のキャリアや経験などを踏まえたうえで、職位や年収が決められます。会計士が企業・事業再生系コンサルティングファームに転職する場合も同様で、前職の職位と年収に準じて年収が決まるケースがほとんどです。

企業再生や事業再生に携わった経験がない会計士の場合、多少年収が下がることも考えられますが、概ね前職と同水準の年収を得られると考えて問題ないでしょう。スタッフ職であれば600万円以上、マネージャーの場合は最低でも900万円以上の年収を見込むことができます。

大手コンサルティングファームへの転職では、高い給与水準を提示されるケースが多い

気をつけていただきたいのは、ファームの規模により、年収に違いがあるということです。中小規模のコンサルティングファームは案件の規模があまり大きくないため、上述の水準よりも低い金額を提示される可能性があります。一方、大規模な事業再生を手掛ける大手コンサルティングファームは報酬も巨額になるため、高めの給与を提示されるケースが高い傾向にあります。

「給与」に対して譲れない条件がある方は、大手の企業・事業再生系コンサルティングファームを中心に転職活動を行うことをお勧めします。

企業・事業再生系コンサルティングファームのキャリアパス

一番のメリットは、経営スキルも含めて幅広い能力を磨けること

転職後のキャリアについても、見ていきましょう。晴れて企業・事業再生系コンサルティングファームに転職した場合、どのようなキャリアステップが考えられるのでしょうか。

これまで何度もご紹介してきたように、企業・事業再生系コンサルティングファームで活躍するコンサルタントは、財務・会計を中心に幅広いスキルや能力が求められます。資金調達に関わることもありますし、事業承継に関する相談に応じることもあります。経営者に寄り添い、経営者と伴奏しながら経営の立て直しを図っていくため、事業再生のプロジェクトを通じて「経営的なスキル」を磨くことができます。

経営悪化に苦しむ企業の事業再生を行う場合、コンサルタントはネガティブな一面に向き合っていかなければならない苦しさを感じることもあるでしょう。しかし、特に事業再生後はポジティブなテーマと向き合うことになります。たとえば、「海外進出をしたい」「M&Aにより会社の規模を拡大したい」など――。再生後の成長に関わることで、企業・事業再生系コンサルティングファームのコンサルタントは、さらに多くのスキルを磨くことができるはずです。

事業会社のCFOとして活躍するほか、独立・起業などのキャリアも

そして、企業・事業再生系コンサルティングファームで得たスキルや経験は、その後のキャリアを築く上でも大きな「財産」となるはずです。例えば事業会社に転職して、CFOとして活躍する場合。自社の事業再生に携わる上で大きな力を発揮することでしょう。

企業・事業再生系コンサルティングファームでの経験を生かして、自ら起業し、会社経営に取り組むケースもあります。企業経営は常に順調に進むとは限りません。経営不振に陥った際の分析や判断を的確にするうえでも、企業・事業再生系コンサルティングファームでの経験は大いに役立つことでしょう。

このように、企業・事業再生系コンサルティングファームに転職した後のキャリアは、会計士の皆さんが想像している以上に幅広く、大きな可能性に満ちています。ご自身のキャリアを拡げていくという理由から企業・事業再生系コンサルティングファームに転職をするのも「良いご選択」となるでしょう。

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企業・事業再生系コンサルティングファームの業務内容と特徴

企業・事業再生系コンサルティングファームの業務内容についてもご紹介しましょう。

現状の分析・把握

事業再生のプロジェクトが立ち上がると、財務デューデリジェンスや事業デューデリジェンスなどの手法を用いて、再生対象となる企業の分析を行います。この段階では、多角的な視点で現状分析を行い、経営が悪化した要因や問題点を浮き彫りにしていきます。

ソリューション(事業再生計画)の策定・実行

問題点が浮き彫りになったら、企業を再生していくためのソリューションを構築します。人材のリストラクチャリングが必要なのか、それとも不採算事業の売却を進めるべきなのか、もしくは部門ごとにコスト削減を図っていくべきなのか――。経営改善のための具体的な戦略を考え、戦略の実行を支援していきます。

特に「ハンズオン」といって再生対象となる企業に常駐する場合は、コンサルタントが経営の一員となって、リストラクチャリングを行っていきます。一方、「ハンズオフ」型のコンサルタントは企業に常駐せず、モニタリングをしながら適宜、助言を行っていきます。

金融機関との交渉・資金調達

事業再生の計画によっては、資金繰りに関わる業務も発生します。具体的には、金融機関に返済期間の延長などを交渉したり、債務の整理を行うなど。また、場合によっては新たな融資の交渉を行うこともあります。

企業・事業再生コンサルティングのやりがい

財務デューデリジェンスなどにより経営悪化の要因を探っていくと、その企業の弱点が見えてきます。脆弱な一面を持ち合わせている企業がいずれ淘汰されていくのは、企業の競争原理なのかもしれません。

しかし、事業再生のプロが課題を洗い出し、再生の方法について経営者と一緒に検討していくことで、企業がかつての勢いを取り戻していくことができるかもしれません。

「企業の存続」という大きなミッションに立ち向かう事業再生のコンサルタントは、それゆえに、得られるやりがいが大きいのも事実です。「会計士の知見を発揮して事業再生に貢献していくことは、すなわち、日本経済の発展にも貢献していくことになる」――これは、決して大げさな表現ではないでしょう。

まとめ

監査法人などで経験を積んできた会計士の皆さま方の中には、コンサルティングファームへの転職をご検討されている方もいらっしゃることと思います。しかし、業務内容をイメージできず、一歩踏み出せずにいる方もいらっしゃるかもしれません。

マイナビ会計士では、会計士の皆様方が転職先で理想のキャリアを築いていけるよう、転職先の情報はもちろん、スムーズに転職活動を行うためのフォローも行っています。企業・事業再生系コンサルティングファームに興味・関心のある方は、お気軽にマイナビ会計士までご相談ください。

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